“蕎麦”に携わる人々の想いを紡いでいく、【そば色ノ日々】。今回は、技術者としてのキャリアを経て、現在は毎回の蕎麦打ちを細かくデータで管理し、そうしたデータの蓄積を駆使し蕎麦打ちを極めようとされている、じんそばさんの”想い”を紡いでいきたいと思います。
プロフィール |
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<じんそばさんの略歴> 1966年佐賀生まれ。 就職で上京し、某半導体商社での営業技術職を経て、2019年に退職。在職中に趣味でスタートした蕎麦打ちがやがて本格的に蕎麦打ちにのめり込む。退職後は都内の蕎麦屋で仕事をする傍ら、自身の打った蕎麦を楽しんでもらえる場として蕎麦会の開催や、全国への配送、そしてSNSによる発信中。拘りはデータを基にした蕎麦打ちと、今日より明日のより良い蕎麦打ちを探求がモットー。 |
──じんさん、本日はお忙しい中にも関わらず、インタビューのお時間を頂きましてありがとうございます。SNSを通じて交流をさせていただいている中で、先日いただきました、じんさんの打たれたお蕎麦が透き通っていて、本当に美しく、そして美味しくて感動しました。本日は色々とお話をお伺いできることを、とても楽しみにしています。よろしくお願いします。
こちらこそ本日は本当に楽しみにしていましたよ。前回召し上がっていただいたお蕎麦も楽しんでもらえたようで嬉しいです。
──本当に美味しかったですし、もっと多くの方にも、じんさんの打たれるお蕎麦を、楽しんでもらいたいと心から思っています。さて、まずはじんさんがお蕎麦と出会うまでのお話を少しお伺いさせていただいてもよろしかったでしょうか。
私は佐賀県の出身なのですが、某半導体商社の技術営業として就職したタイミングで東京に出てきました。2019年まではそちらの会社でお世話になっていたのですが、なんともまぁ本当に忙しい毎日でしたね。途中、合併や人員削減などが重なって、本当に忙しくて、今では考えられないほど、残業の鬼と化していました。まさに社畜(笑)
そんなある日、無理が祟ったのか肺炎にかかって入院。これは流石に身体を労わらねばと思い、復帰後は漸くの間、定時で帰れるよう配慮して頂き、少し余裕をもった生活が出来ることになったんです。
そんな時に、とある5月のGWに妻の実家の長野に帰るタイミングがあったのですが、そこでたまたま近くの蕎麦打ち体験道場で初めて蕎麦打ちを体験し、見事にドはまりしてしまったのが私のお蕎麦人生の初めの一歩となりました。
もともとは、試しに一度だけ蕎麦打ちを体験できたら良いかなというぐらいの気持ちでやってみたのですが、自分の打ったお蕎麦を食べた時に、あまりにも美味しく感じられて、とても感動したのを覚えています。やっぱ自分で作ったものは、より美味しく感じられるものなのですよね。
その初めての蕎麦打ちの時にはいなかった妻に帰宅後その話をしたら、『私も食べてみたいから家で打ってみてよ!』といわれ、すぐにAmazonで蕎麦打ちセットをポチっとな。そして翌日には到着。これで残りのGW中も自宅でも蕎麦打ちできる環境が整いました。この妻の一言がなかったらもしかしたら今こうして蕎麦を打っている日々は無かったかもしれないですね。
早速、蕎麦打ち体験を思い出しながら打ってみたんですが、なかなか思うようにいかず、四苦八苦しました。それでも、なんとか形にしたものを妻に食べてもらったところ、『美味しい!』という嬉しいことを言ってくれて、もっともっと蕎麦打ちを学びたいという思いが強くなったんです。褒められて伸びるタイプですね。笑
私は、もともと多趣味なこともあり、カメラやイラスト、ゴルフなど色々とやってきていていたのですが、自分が作ったものが誰かに喜んでもらえるという事が、今回初めての経験でした。趣味で、自分が心底楽しめて、更には誰かが喜んでもらえる、これは今後の人生をかけて突き詰めてやっていく他はないなと感じて、上達したいというモチベーションがぐぐぐっと上がっていきましたね。
──ご自身が『おいしい』と感じられたのは勿論、奥様からの『おいしい』というお言葉、嬉しいですね。その後はどのように蕎麦打ちに向き合ってきたのでしょうか?
妻に始めて打った蕎麦は500gの二八蕎麦。正直、練りも甘いし、切りもかなり太くなっちゃって、そして茹でてもボロボロとなってしまって今思えば恥ずかしい出来だったと思います。
そんなお蕎麦だったのですが、元々カメラが趣味だったということもあって、インスタグラムの一つの投稿のネタになるかなとも思い、その日から、折角打ったお蕎麦を、打つたびに、ナンバリングして投稿するようになっていきました。
先ほどもお伝えした通り、仕事はもともと技術職だったのですが、いわゆるプログラミングを書いて、動かしてみて、うまく動かなかったら、うまくいかない差分を改修して、デバックしていくことを繰り返していたのですが、実はそうした仕事が大変に楽しかったのですね。原因がわからないものを見つけては、その解決策を探していくステップが大好きなんです。
それが、蕎麦打ちにも通ずるところがありました。
始めたばかりのころは、本当に何が何だかわからなかったのですが、Youtubeや書籍等で学び、自分が打った蕎麦の出来栄えと、お手本となっている蕎麦とを見比べて、ひたすらに研究を重ねました。
どこがだめで、何をしたらよりお手本に近づくのかと。
そんな日々を一年ほど過ごし、ある程度のお蕎麦を打つことは出来るようになったのですが、折角なのでもっともっとお蕎麦について深く学びたいという気持ちが強まっていきました。蕎麦打ちだけではなく、汁づくりや、蕎麦の文化や知識を深めたいとの想いもあり、2018年の夏、江戸ソバリエの門をたたくことにしました。
その江戸ソバリエのご縁で、今もお世話になっている某神楽坂の老舗蕎麦屋の店主と出会い、そちらのお蕎麦屋さんが主催する十割蕎麦打ち教室に、通うようになっていきました。ここで十割蕎麦は蕎麦粉の質によって打ちやすさが大きく違うことを学びました。
そうこうしていると、2019年の6月に会社を早期退職することにしたのですが、そうした教室に通っている縁もあって、そちらのお蕎麦屋さんでバイトさせていただくお話を頂き、以来週末はそちらでお世話になっています。
一方で、蕎麦打ちの”段位”を取ることにもある時からふと興味が湧いてきたんですね。
そこで、折角ならば”段位”の取得に真剣に取り組むべく『さいたま蕎麦打ち倶楽部』にも並行して通うようになって、講師によるマンツーマンのご指導のもとお陰様で2020年に初段、2021年に二段に合格出来ました。その後2022年に全麺協の三段位取得を目標に、6か月ほど毎週2回ほど自宅で蕎麦打ちの練習の日々。1.5Kgを40分で打つのは自分にとってはかなり至難の業でしたので、写真撮ったり録画したりして記録の虫と化してました。
私のインスタを見て頂けるとわかるかもしれないですが、私は精密に測ることが大好きなんですね、なので毎回打ったお蕎麦を写真だけでは正確な数字は伝わらないので、定規を当てて写真を撮って、それをインスタに投稿・記録していました。
──インスタを拝見していて、本当に変態なぐらい蕎麦打ちに真剣に向き合っていらっしゃていますよね。
蕎麦を打っている人に「変態ですね」は誉め言葉だと思っています。笑
そうした蕎麦打ち、ナンバリング、測量して、インスタに上げるということを、かれこれ6年間やり続けています。
自分で打っているだけでは少し寂しいですし、折角なのでと、友人達に蕎麦会を開いて自分の打ったお蕎麦を愉しんで貰う場を企画したりもしています。そんな友人たちも、ありがたいことに、『おいしいおいしい』と言っていただけていて、妻の一言もそうでしたが、やっぱ嬉しいものですよね。
──蕎麦会はどれくらいの頻度で開かれているのですか?
コロナで少し頻度は減ってしまったものの、元々は月に二回は開催していました。シンプルにお蕎麦だけを楽しんでもらう会も有りますし、蕎麦前も込みで楽しんでもらう会もやっています。蕎麦前で日本酒を愉しんで、最後に二八と十割の食べ比べをしたり、ときにはかけそばをお出ししたりと、自分自身も楽しみながら色んなバリエーションの蕎麦会を企画しています。
──素敵ですね。是非、そば色ノ日々ともコラボした蕎麦会を企画させて下さい。ちなみに、週末は某神楽坂のお蕎麦屋さんで働かれているとのことはお聞きしましたが、平日はどうされているのですか?
コラボ蕎麦会については、是非、やりたいですね。
平日のランチは、某北池袋の老舗のお蕎麦屋さんでお世話になってます。実はこちらも江戸ソバリエのご縁で繋がりを持たせて頂きました。
完全手打ちで十割に拘った神楽坂のお蕎麦屋さんと、機械打ちだけれども趣向を凝らした新しいことに挑戦する北池袋のお蕎麦屋さんの両店で働かせていただいていることで、視野がとても広がり、ありがたく貴重な経験をさせていただいていると思っています。
──じんさんは蕎麦打ちに関してインスタグラム以外での発信もされているのでしょうか?
はい。Youtubeでの発信にも力を入れています。
2年くらい前から蕎麦打ちの際は毎回録画してますので、その中から面白そうなものをチョイスして編集してテロップ入れて投稿しています。
例えば、2kg打ちに挑戦、1Kg30分打ちに挑戦、茶そばに挑戦などなど。他にも三段位向け練習風景(制限時間40分をクリアするまでの悪戦苦闘)をシリーズ化したりしてます。ここでも蕎麦打ちデータ付きですので繰り返し何度でも反面教師の教材として楽しめますよ(笑)。ちなみに直近の目標は登録者数1,000人を目指しているので、ぜひ、このインタビューを読んでくださっているみなさんも、登録いただけると嬉しいです。笑
──そんなじんさんが蕎麦打ちに対して心がけていること、拘っていることがあれば教えて頂けますでしょうか。
そうですね。人にお届けするお蕎麦については、蕎麦紙で包んで、なるべく乾燥させないように意識しています。蕎麦を切って、一度生舟に入れてから、まとめて包んでいくことも出来ますが、私は切りが遅いので、乾燥を防止するために、切ってすぐに包むようにしています。また、そうすることで、麺線がとても綺麗になるので、お届けした際の美しさにも拘るようにしています。
それと、何度も話しに出てきている様に、打つ蕎麦はすべてデーターベース化しています。そうしたデーターベースを基にして、どういう状況で打った結果、そのような蕎麦になったのかをひも解くとかが出来るんですね。前回お届けした蕎麦の、加水率や蕎麦の厚みなどなどをベースにして、今回リピートいただいているお蕎麦はどのように打とうかと、好みなどを想像しながらオーダーメイドで打つようなことを愉しんでいますね。
いつまで続くかわかりませんが、気力が続く限り記録は続けたいと思います。
──じんさんがお蕎麦をお届けして嬉しいと感じる瞬間はどのような時でしょうか?
蕎麦会をしているときなんかは、私はキッチンにいる時間が長いのですが、食べていただいたときに『おいしい!』という声が漏れて聞こえてくるときは、ひそかにガッツポーズをしたりしていますね。笑
また、お届けしたお蕎麦を綺麗に盛り付けて、SNSを通じて写真を送って頂けたり、おいしかったという感想も送って頂けると本当に嬉しく感じますね。
──じんさんの今後挑戦していきたいことや展望があれば教えて頂けますでしょうか。
今後はより挑戦的なお蕎麦のお届け方法にも挑戦していきたいなと思っています。例えばですが、毎回違う種類のお蕎麦が定期的に届けられるサブスクサービスが出来ても面白そうですし、しっかりとした製造許可もとった蕎麦打ちの場を準備して、正式なビジネスにもしていきたいと思っています。今後2.3年の間に、本格的により多くの皆様に私のお蕎麦を楽しんで貰えるような、そんな環境を作っていきたいと思っています。
また超個人的で些細な野望ではありますが、現在「経県値」というスマホアプリでお蕎麦をお届けした県を塗りつぶしているのですが、いつか全国制覇をしてみたいですね(笑)
<最後になりますが、じんさんにとっての“そば色”を教えてください。>
【“白色”ですね。】
透明感のある透き通ったお蕎麦が私は好きなんですね。そうした透き通った蕎麦の色として、白色とさせていただきます。
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