蕎麦に携わる「想い」にスポットをあてる     蕎麦好きによる唯一無二のメディア

そば創りノ日々

先祖代々続く辛味大根へのこだわりが詰まったおろしそばの継承者


遊亀庵かめや 四代目 【酒井 遼一】さん

“蕎麦”に携わる人々の想いを紡いでいく、【そば色ノ日々】。
第一回目の今回は、福井県は武生の地にて4代に渡って多くの県内、県外の人々を魅了する、『どのお蕎麦屋さんよりも辛い』おろしそばの名店、遊亀庵かめやの四代目 酒井遼一さんをご紹介させていただきます。

プロフィール
<酒井 遼一さんの略歴>
1986年5月1日生まれ
武生高校卒業後、愛知大学法学部に進学
2009年卒業後、即稼業に戻り、2022年に事業継承に伴い代表取締役就任。

──酒井さん本日は開店前の慌ただしい時間帯にもかかわらず、インタビューのお時間をいただきまして本当にありがとうございます。思い返せばコロナ禍初期の頃に、お蕎麦屋さんを応援したいとの想いから、かめやさんのおろしそばのお取り寄せをブログで紹介させていただいて以来のお付き合いで、今回もこうしてインタビューをさせていただけること本当に嬉しく思っています。
 早速いろいろとお話をお伺いしていきたいと思うのですが、まずは、そば業界に入るようになったきっかけや、経緯について教えていただけますでしょうか?

 お取り寄せの時にはとてもお世話になりましてありがとうございました。お陰様で、とても助かりました。
 僕は遊亀庵かめやの四代目です。元々曾祖父が、建具屋を営んでいたのですが、戦争が始まり、それでは家族を養っていくことが難しくなった時に、初めは大衆食堂として初めて、住民の皆様のお腹を満たすことから、飲食業界に携わるようになったと聞いています。
 そこから数年を経て、二代目の祖父に代替わりのタイミングで、蕎麦に特化した業態に変えたと聞いています。

──その時からお蕎麦一本になられたのですね!当時だと、出前などもよくあったと思うのですが、いかがでしたでしょうか?

  大衆食堂の時代は出前もやっていたのですが、お蕎麦一本になってからは出前は一切とらないように変えました。そこにはおろしそばの美味しさへの強い拘りがあります。ご存じ無い方も多いかもしれませんが、実は大根おろしは、おろしてから役8分後に辛さのピークが来るんですよ。そして、15分近くになると徐々に絡みが感じられなくなり、その後20分近くになるとむしろ臭みやえぐみが出てきてしまうんですね。そうすると、出前をしている時間で、本当の美味しさを損なってしまうこともあり、出前は味を落とすことになるので、一切やっていないのです。

──なるほど、おろしそばの味への強いこだわりがありますね。ところで、歴史あるかめやさんですが、酒井さんは元々からお店を継ぐ予定だったのでしょうか?

   それが実は一切継ぐことは考えていなかったんです。(笑)
大学も、愛知県の法学部に通っていましたし、飲食の業界に携わっていくことになるとは、当時は全く考えていなかったです。また、特に修行をしていたということもないんですよね。
 一方で、学生時代に飲食店でのアルバイトは経験していました。日々天ぷらを揚げていたのですが、その時に少し調理の楽しさには触れていたんだと、今振り返ると思います。そんな中で、いつごろからこっちの道に進もうと心を決めたかといいますと、2007年の大学三年生の夏に、祖父が少し年齢を重ねたこともあり、父親から、『外から職人さんを取ろうかと悩んでいる』との相談を受けたんですよね。その時に、今まで代々家族で経営をしてきたこのお店なのに、外の血を入れたくないという、強い想いがふつふつと沸き立ってきまして、ほかの人に渡すのではなく自分が継ぐんだ!という、強く思うようになりました。

──伝承していくことに対しての熱い思いを感じられました!ちなみに、かめやさんのお蕎麦は本当に特徴的ですよね。こちらについてもお話しお伺いできますでしょうか?


 私たちのお蕎麦の一番の特徴は、このもちもちとした太めのお蕎麦ですね。こちらは先祖代々変えていないのです。見た目と触感からよく、『小麦粉の含有量が多いんじゃないか?』との誤解を持たれる方もいらっしゃるのですが、しっかり二八のお蕎麦でお出しさせていただいています。
 このもちもち感を出すために、限界まで加水をして、水分を多く含ませることを工夫しています。また、水分をしっかりと含ませるためにも、蕎麦粉と、小麦粉、どちらもしっかりと冷やすことにも意識をしています。

──お蕎麦だけではなく、かめやさんでは本当に野菜についてもおいしいなと思っているのですが、野菜に関してのこだわりはいかがでしょうか?

 祖父の代からお付き合いしている八百屋さんの娘さんが、本当に野菜に対する熱い拘りがあって、そちらから仕入れているからこそおいしい野菜もお客様にもご提供できていると思います。
 例えばですが、モロッコエンドウってご存じでしょうか?今までモロッコエンドウを天ぷらにするという発想は一切なかったのですが、その八百屋の娘さんが、『じっくり揚げながら、焦げ目をつけると、香ばしくなって、とてもおいしい』ということを提案してくださって、今では人気の逸品としてお客様にも喜んでいただいています。
  また、他の様々野菜に関しても、まだブランドとして広くは認知をされていないような、地元で愛されている野菜もご提案していただけて、新しい可能性を常に発見できていることもあり、お客様にも日々新しい感動をお届けできていることが、とてもうれしく感じています。

──かめやさんの特徴の一つとして、なによりも大根おろしの【辛味】がとても衝撃的でした。辛味大根に関してのこだわりもお話しをお伺いできますでしょうか?


 ありがとうございます。まさにその【辛味】こそが私たちのこだわりであり、プライドなんです。中には、『辛すぎてこれは食べれない』と仰られるお客様もいらっしゃるのですが、私としては、『辛くて食べれない・・・』はむしろ大歓迎です。
 この特徴ある【辛味】に、むしろはまっていただけるリピーターのお客様もとても多いこともあって、他所では味わうことのできない、唯一無二のおろしそばであると、自信をもってお出しさせていただいています。今の個性の時代に、まさにあった形で、おろしそばをブランディングできていると自負しています。グッとくる辛さは、印象に残りますし、なによりも当店でしか味わうことのできない、特徴あるおろしそばとして、ご提供できていることを誇りにも思っています。
 ちなみに、当店で使用する大根については、6月-10月については【ひるがの高原だいこん】一択です。水はけと風の具合が良いところで育つ大根は、大根自体から水分が抜けていくときに、ぎゅーっと辛味が濃縮されるのですが、ここの大根が育成環境もベストであると決めています。
他の季節は、所説ありますが、様々な知見から旨味と辛味を踏まえて、全国から厳選して使用しています。

──ここまでお話を聞いてきて、おろしそばへの熱い拘りをひしひしと感じさせていただいています。そんなおろしそばへの、酒井さんの想いを最後にお聞きできればと思います

 私自身おろしそばに対して本当に強いプライドがあります。様々な食に関連したイベントにおいて、おろしそばが【B級グルメ】として呼ばれてしまうことが残念ながらあるのですが、本当に悔しく思っています。一流の日本を代表する料理として、認められるようになる、そうしたプロモーション活動にも今後はさらに力をいれていきたいと思っています。

 そのためにも、福井の魅力ある食文化との掛け算も大切だと思っていまして、蕎麦前にもこだわっています。蕎麦前って、フレンチやイタリアンの前菜と同じだと思っていて、メインのお蕎麦の前に気分を高めていただきたいとの想いでお出ししています。おいしい福井の肴に、福井の日本酒で、酔い時間をぜひ過ごしていただきたいですね。福井は本当に食に関してはさまざま魅力がそろっているからこそ、県外の方にも、ぜひ、存分に楽しんでいただきたいと思っています。

 ちなみに、おろしそばは消化促進、殺菌作用もあるので、健康食としても認知を広めていけたらと思っています。
今回のインタビューもなのですが、そうした活動を通じて、おろしそばを、日本を代表する和食として、ブランド価値を高めていきたいと思っています。

──熱い思いを本当にありがとうございます。最後になりますが、今後の展望を教えていただけますでしょうか?

 実は福井のお蕎麦屋さん同士のつながりって、少し少ないんですよね。
他の業態の飲食店の皆様ともつながっていて、様々な刺激を受けていますが、みんなで一丸となって福井県のおろしそばを盛り上げていくという、お蕎麦関連のつながりも今後は広げていきたいと思っています。

<最後に、酒井さんにとっての“そば色”は?>

【“無色透明”

 蕎麦は古くから日本人に寄り添ってきた食文化です。
日本中を旅するとその地ならではの蕎麦文化があり、その土地の人々に寄り添って根付いてます。それはまるで、”空気”のようであり、なくてはならない存在に思えるからです。

店舗情報
店名:遊亀庵かめや
住所:〒915-0847 福井県越前市東千福町27−37
TEL:0778-22-0399
営業時間:11時00分~18時30分
定休日:木曜日


  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事
蕎麦屋 de 上機嫌

蕎麦屋 de 上機嫌

蕎麦酒タニスタ兼インスタグラマー

幼少期と学生時代、そして仕事でシンガポール、インド、ミャンマーと渡り歩いた末に帰国。お蕎麦屋さんでいただく“一杯”の魅力に取りつかれ、現在は全国のお蕎麦屋さん巡りをライフワークにする蕎麦屋酒ニスタ。 普段はIT系上場企業にてDXな事業に従事する傍ら、日々、蕎麦屋酒の魅力をSNSを通じて発信中                          InstagramID:sobaya.de.jyokigen

  1. 自分自身が真に納得する拘りでお客様に喜んでもらいたい

  2. 人に喜んでもらえる“蕎麦打ち”の魅力と感動を多くの人に広めたい

  3. 夫婦二人三脚で理想のお酒を愉しむお蕎麦屋さん創り

関連記事

PAGE TOP