蕎麦に携わる「想い」にスポットをあてる     蕎麦好きによる唯一無二のメディア

そば創りノ日々

長野県 北志賀高原の隠れたそばの名所 須賀川そばの継承者 〜夢は幸せの輪を広げること〜


“蕎麦”に携わる人々の想いを紡いでいく、【そば色ノ日々】。第7回目の今回は、長野の地にて、弱冠23歳にして須賀川そばの継承者、岩本啓汰さんをご紹介させていただきます。

プロフィール
<岩本啓汰さんの略歴>
1999年8月9日生まれ 23歳
長野県下高井郡山ノ内町出身 山ノ内町在住。
専門学校卒業後は東京の蕎麦屋へ就職
2022年5月より岩本そば屋の三代目になる

──本日はお忙しい中、インタビューに応じていただきありがとうございます。
気軽に楽しく充実した時間に出来たらと思います!
まず、啓汰さんの自己紹介をお願い致します。

はい、高校卒業後は調理師免許の資格を取るため新潟の専門学校へ行きました。

蕎麦の仕事に携わりたいこともあり、卒業後は東京の更科堀井 日本橋店に二年間勤務していました。

手打ちの練習もやることがあり、本店に行って修行しておりました。 実家のお蕎麦屋さんを継いで、目の前でお客様が幸せになる瞬間を見たい!という強い気持ちがあり、祖父や祖母、次に父、今は3代目として僕が継いでいます

──そうだったんですね!ご実家のお蕎麦屋さんを継ぐことは昔から決めていたんですか?

小さいころから、継いで欲しいとは両親からは一度も言われたことないんです。

小中高と野球部だったので、毎日忙しく、家業の蕎麦との関わりがありませんでした。 ですが、高校生の時に須賀川地区の八丁原という畑で行われたそば祭りに行った際に、蕎麦畑の一面の花がとても綺麗で、目の前には高社山、青空が広がっていた光景を見た時に感動したんです。須賀川なのに、須賀川ではないような、地元にいるとなかなか見ない景色を見ました。そこで育つ蕎麦や野菜が本当に美味しいんです!農業をする父が、その環境を守っているのがとってもかっこいいなと思って、そこからちゃんと継ぐことを考えようと思い始めました。

≪八丁原のそば畑≫
≪そば畑を耕すところ≫

──確かに八丁原の景色は感動しますね!そばだけでなく野菜も最高に美味しいですね。 ご実家のお蕎麦屋さんを継いでからは1人でやられているんですか?

お店は家族経営でやっています。営業は主に接客が母、釜前が祖母、天ぷらが父、一品料理は僕が用意しています。書家の祖父は贈り物としてお客様に書をプレゼントしています。

そば打ちは83歳の祖母も一緒に手伝ってくれています。

一人でやっていると心が折れそうだけど、祖母が毎日一緒にやってくれているのをみていると、自分も頑張ろうって気持ちになります。

辛い時もありますが、祖母の姿にすごく支えられます。 言葉では表せないですが、いつも支えてくれる家族にとても感謝しています。

──啓汰さんのご家族の温かみがよく伝わります。ここで須賀川そばについてご説明頂けますか?

はい、打ち方ですが、1キロに対して、オヤマボクチ5g使用します。

練るのに15分、のしに10分程、そして一時間乾かします。

通常のお蕎麦は乾かしたらだめですが、須賀川そばは昔、農作業の合間に蕎麦打ちを行い、そのあと夜に切って食べていました。そのため、加水率を多めにしています。加水率が多い蕎麦をつなぐためオヤマボクチを入れていたのではないかとも言われています。

オヤマボクチを使うことで、十割蕎麦の風味とコシと喉ごしを楽しめます。

練る工程は、しっかり木鉢のヘリに合わせて練ります。

この練る工程を何度も行うことで、のど越しも最高になるんです。

おりまげて伸して、おりまげて伸して、パンと一緒で層を練り込むことでコシが生まれます。

蕎麦は環境で毎日変化します。触った感覚、のしの感覚も変化します。 だから、とても面白いです。それが醍醐味で日々挑戦です!

≪そば打ちをする啓汰さん≫

──江戸そばと比べると全く打ち方が違いますよね! 打ち方やつなぎでオヤマボクチを使っている以外ではどんな特徴がありますか?

須賀川そばの食文化をお話すると400年前に法印さんというお坊さんが打ち方を教えてくれたようです。お嫁に行く前は蕎麦打ちが出来ないと行けないくらい、須賀川の人たちは法印さんに教えてもらった蕎麦を大切にしていました。 花嫁修行の文化は無くなりましたが、須賀川そばの伝統は今でも根付いているので、伝統あるお蕎麦を今後も繋いでいきたいと思っています。

──そんな伝統ある須賀川そばの継承者として、守りたいものはありますか?

須賀川そば自体、打ち手が減ってきているので絶えないように絶対に守っていきたいと思っています。

そして、新しいものをどんどん取り入れていきたいです。

自分も含め、地元の人はどこか出かけるとなると町外へ出かける事が多いですが、もっと大人の人たちがお酒を飲みながら楽しめるお店にしていきたいです。その姿を見た次世代の子供たちが憧れを持って新しい「まち」をつくる。

そういった意味では、街を守り繋いでいきたい。 若い自分たちのような世代が率先してやっていく、そんな街づくりのサイクルをつくりたいです。

──素敵ですね!地元の人が好きな地元の街づくりは大切ですね。

僕にとって蕎麦屋って一つの表現なんです。

お店でおいしい蕎麦を食べて笑って、ヒトをつないで、幸せになってほしい。

そんな思いを大切にしています。

また、言葉遣いも工夫していて、お客様に来ていただいたとき、「いらっしゃいませ」ではなく、「こんにちは」にしています。

お店の佇まいが家のようなので、リラックスしてくださいという気持ちを込めています。 お客様にはリラックスして食事の時間を楽しんでほしいという気持ちはだれにも負けないです。

──お店に来たお客様にはどういう体験を持ち帰ってもらいたいですか?

お客様にはその先のその先まで幸せになってほしいんです。

家に帰って、あそこのお蕎麦屋さん素敵だったよ。とか、また行きたいね。って家族で会話の話題になったり、その先の先まで幸せの伝搬すればうれしいです。

お客様自身が感じたことを大切にしてもらい、蕎麦屋で蕎麦を食べる。当たり前だけど、笑って幸せな時間を心から楽しんでもらいたいです。 誰かを幸せにしたいという想いが強く、幸せの輪を広げていきたい、これが一番だと思っています。

≪須賀川そば≫

──今後、10年、20年後にはどんな目標がありますか?

世代の垣根を超えて、集い笑いある場所をつくりたいです。

蕎麦屋、本屋、コーヒー屋、そうしたコミュニティを作っていきたいですね。

また、何かをやりたいと思っている人を応援できるような場所をつくっていきたいと思っています。

自分は蕎麦屋なんだけど、蕎麦屋の枠を超えた形でやりたいです。

蕎麦と本、蕎麦とナチュラルワイン、蕎麦とビール、蕎麦とコーヒーとか、掛け算で新しい価値を生んでいきたいですね。

まずは、夜のお店で、岩本そば屋の二号店をやってみたいです。

板わさから玉子焼き、そして日本酒やナチュラルワインを提供したいです。

農業にも挑戦していきたいと思っています。その中で、生産者さんとの輪を広げて、生産者さん〜お客様へ。過程を楽しめる蕎麦屋をやっていきたいです。

その場所、その時間に生まれた、たわいもない会話を大切にしたいです。

自分の技術もどんどん多くの人に伝えていきたいです。 昔のように見て覚えろではなく、多様性が大切だと思っています。チャレンジしたい人や外国の方も積極的に受け入れて、教えていくことで、伝統と文化を堪能していただきたいです。

──これは私も考えていることですが、須賀川に多くある休眠土地について今後どうしたらいいと思いますか?

蕎麦畑にしたいです。蕎麦の白い花があったらとっても素敵だと思っています。

課題は多いですが、関係人口を増やしていき、須賀川区も高齢化が進んでいるので、しっかり魅力を若い人に伝えて、好きになってもらいたいです。

そのためにも発信し続けること、ゲストハウスなど宿泊場所を作り、里山遊びを通じて関係人口を増やしていく。

今にときめいて、時間をもっと楽しんでほしい。食事の一つ一つの時間を幸せな時間にしていってほしい。

<最後に、啓汰さんにとって“そば色”は?>

【“オレンジ”ですね。

オレンジは暖かい色。幸せな時や笑っているときもオレンジ色。 将来、一緒に働いてくれる方と喜びや感動を共有して蕎麦を中心に、『生産者さん』『一緒に働いてくれる方』『お客様』『地域の皆様』が幸せに過ごせるオレンジ色の連鎖。幸せの輪を広げ皆様に幸せになってほしいです。

店舗情報
店名:岩本そば屋
住所:〒381-0405 長野県下高井郡山ノ内町苗間7654
TEL:0269-33-6536
営業時間:
[月~水・金~日]11:00~15:00(L.O.15:00)
定休日:木曜日

  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事
長野のそば女子

長野のそば女子

伝統を守る為奔走するそば女子

長野県北志賀高原に昔から伝わる幻のそばを広めるため、お蕎麦屋さんの開業を夢みるそば女子。そばの生産から提供まで携わりたい想いから、美味しいお蕎麦と最高の蕎麦前、お酒を学ぶお蕎麦屋さん巡りをしている。そば打ちの修行も行いながら自身の活動を積極的にSNSにて発信中。 ・・・・InstagramID:sobabatake

  1. “ 蕎麦打ちは私の人生です ” 女流蕎麦打ち職人 棚橋由佳さん

  2. 長野県にてそばの可能性を追求するそば打ち&スイーツ女子~そばで笑顔をつなぐ〜

  3. 長野県 北志賀高原の隠れたそばの名所 須賀川そばの継承者 〜夢は幸せの輪を広げること〜

関連記事

PAGE TOP