“蕎麦”に携わる人々の想いを紡いでいく、【そば色ノ日々】。 第三回目の今回は、福井の地にて、蕎麦の製粉に拘り、県内外のお蕎麦屋さんを支える、株式会社橋詰製粉所の橋詰社長をご紹介させていただきます。
プロフィール |
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<橋詰さんの略歴> 東京の大学を中退後、三代目として橋詰製粉を引継ぎ、現職 |
──本日はお忙しい中にも関わらず、インタビューのお時間をいただきまして本当にありがとうございます。早速いろいろとお話をお伺いしていきたいと思いますが、まずは橋詰さんの自己紹介からお願いできますでしょうか?
福井で高校を卒業した後に、東京の大学に通っていたのですが、中退を期に、跡継ぎとして橋詰製粉所に入りして、今に至っています。私自身は橋詰製粉所の三代目として、福井県産のお蕎麦に拘り、”製粉”と”蕎麦粉”で福井のお蕎麦文化を支えています。
──橋詰製粉さんの成り立ちを教えていただけますでしょうか?
もともとは初代の私の祖父ですが、軍事工場で働いていたようでして、三重の方で疎開していたようなのですが、戦後に、福井へ戻ってきたとのことです。祖父は元々から手先が器用な方だったみたいでして、その特技を生かして、配給用の小麦を挽くことから商売を始めたようです。その後、さらに繊細さが求められる、蕎麦粉を挽いてみようとのことで、蕎麦と向き合い始めたと聞いています。
福井には多くのお蕎麦屋さんが当時からありました。ただ、お蕎麦屋さんといっても、食堂のようなところが多く、中華料理であったり丼ものもやってるお店が多かったんですよね。そうしたお店に蕎麦粉を卸しはじめたのですが、最初は石臼4台と小規模に始めたようなのですが、次第に需要を捌けきれなくなってきたこともあって、今から30年ほど前に、10台もの石臼をようした工場に移転しました。
そして、時を同じくして、県として福井のお蕎麦をしっかり県外にも売り出していこう!という流れも生まれ、そうした機運の高まりにも乗っかる形で、先代も、福井のお蕎麦にさらに力を入れるようになっていったと聞いています。
──福井のお蕎麦に対して、とても強い拘りが感じられるお話しをありがとうございます。
私は、福井の在来種が日本一のお蕎麦だと、心の底から思っています。それは、私たちが作っている蕎麦粉、だけの話をしているのではなくて、蕎麦畑から始まって、私たちが粉にして、そしてそれを最後にお客様が楽しめるようにお蕎麦を打つ職人とお蕎麦屋さん、そうした出来上がりまでの一連の流れが紡がれているからこそ、おいしい福井のお蕎麦文化が続いており、とても大切なことだと思っています。
そうした一連の紡ぎの一つのピースが欠けてしまっても、日本一のお蕎麦を、多くの皆様に楽しんでいただくことができなくなってしまうわけです。
福井のお蕎麦の実や、越前おろしそばについては、最近ではメディアでも多くとり上げていただけていることもあり、認知自体は高まってきていて、本当に嬉しく感じています。
その反面、畑とお店をつないでいる、我々のような”蕎麦粉”を作る工程についてスポットをなかなか当てていただけないことに、少しさみしさを感じています。
拘りのあるお蕎麦屋さんですと、手挽きをされているお店も多いと思いますが、より安定的に、おいしいお蕎麦をご提供していただけるように、我々製粉所は頑張っています。挽き方一つで、お蕎麦は本当にがらっと変わるものなのです。
そうしたお蕎麦を製粉するにあたって、私たちは石臼自体も、自分達で目立てしています。石臼をたたく度に、どうしたらより良い粉を挽けるのかと、日々考えています。石臼の目立てを、自分たちの手でやっている製粉所は、県内でも珍しいのでは?と思っています。
──橋詰社長の考える、良い蕎麦粉、について教えてください。
私の考える良い蕎麦粉ですが、十割で蕎麦を打つ際にも、いかに粘りが出やすい蕎麦粉にできるか、常に突き詰めて考えています。
目立てを自分たちの手でしているからこそ、実際に蕎麦の実が石臼の中でどのように動き、挽かれるのか、年を重ねるごとに頭にイメージできるようになってきました
蕎麦の実は、単純に叩いて粉砕してはだめです。まずは薄く皮を剥いでいくことで、粘りが出やすくなる。ゆっくり、ゆっくりとすりつぶすことが大切です。
気に力をいれて粉砕してしまうと、粒子的にも角が出てしまうんですよね。例えば、電動ミルなどで粉砕するとそのようになってしまうことが多いですね。
石臼は、ゆっくり、ゆっくりと擦りながら粉にしていくからこそ、とげのない、きれいな蕎麦粉になります。とげの有無は食感にすごく現れるのですが、私たちが作っている蕎麦粉は、打っているときに本当に滑りが良いとお褒めの言葉を言ってくださるお客様が多いです。
私たちの挽き方ですと、蕎麦の実の細胞をあまり壊さないので、美味しさが保てる形になっているのだと思っています。また、細胞を壊さないからこそ、水分をしっかりと保ちやすい蕎麦粉になっていて、十割でも非常に打ちやすくなっているのだと思っています。お蕎麦屋さんの皆様にも、負担の少ない、もっと手軽に、良いお蕎麦を打てるような蕎麦粉を作っていきたいと思っていますし、そうした蕎麦粉が身近に手に入るようになれば、もっと多くの方、例えばお子様にも、蕎麦打ちに触れてもらえる機会が増えていくのかなとも思っています。
──熱い想いをありがとうございます。ちなみに、今福井では何件くらいの製粉所があるのですか?
小さい製粉所さんはたくさんあるのですが、福井市内にはメインで三か所くらいだと認識しています。他社さんも、石臼ではやっていて、表面上は同じに見えるかもしれないですが、実は石臼の中は各社さんとてもそれぞれ特徴を持っているのです。当然、石臼の中は企業秘密ということもあり、なかなか公開ができないこともあって、違いのアピールは難しいのですけどね。
そうした背景もあって、蕎麦粉の良し悪し、評判は、ご提供させていただいているお蕎麦屋さんからの評価が一番ですね。また、今後は、今まで公開することのなかった石臼の中についても、少しずつオープンにしはじめていこうとも考えています。そうすることで、我々の企業努力がより多くの方に伝わっていけば良いなと思っています。
また、公開したとしても、すぐには真似ができないものになっているという自負もあります。
──橋詰製粉さんで取り扱っている特徴あるお蕎麦はありますか?
はや刈りそばと雪室そばの二つがあります。
はや刈りそばは福井の大野市で作り始めたお蕎麦になります。新物をより良いもの(付加価値をつけたい)にしたいという想いのもと、新蕎麦がなる少し前の、未熟なうちに刈り取るお蕎麦です。少し若いお蕎麦なので、色が綺麗な淡い緑色になり、視覚的にも、打つ人、手繰る人も気持ちが高まります。また、ルチンの配合率も、一般的なお蕎麦よりも高いということもわかっています。
本当にきれいな緑色なので、色を楽しんでいただけるお客様が多いのも、本当に嬉しいです。
二つ目の雪室そばですが、勝山の方で作っているお蕎麦です。勝山は豪雪地帯ということもあって、最初はその雪の有効活用の方法を考えていて、雪を使って蕎麦を冷蔵してみようということで始めてみました。
現在で10年くらいやっているのですが、雪で保存することで、鮮度が保てつつ、あくも抜けて、蕎麦の味と香りがぐっと引き立つお蕎麦になりました。なだらかに温度が管理できるのと、振動や光がないことで、お蕎麦自体へのストレスがかからないのもいい点なのだと思っています。
──ありがとうございました。最後に、今後の展開や展望についてお話ししていただけますでしょうか?
今後はさらに、製粉業のこと、石臼の職人のこと、目立てのことなど、私たちの業界のことをより多くの人に知ってもらいたいと思っています。
また、福井のお蕎麦自体のプロモーションも積極的に県外でも活動していこうと思っています。例えば、蕎麦打ち講座をやったり、県外のイベントに出展していくことで、ブランド価値の向上にもつなげたいと思っています。
ただただ待っている、受け身の姿勢では、なかなか魅力が伝わっていかない。福井の越前おろしそばの文化を真剣に発信していこうと考えています!
<最後に、橋詰さんにとっての“そば色”を教えてください>
【“緑”ですね】
お蕎麦は、食べて心が落ち着く、和の文化だと思っていますし、お蕎麦は郷土食ですよね。それを食べることによって昔を思い出したり、家族団らんの場になったり、福井に帰ってきたら、お蕎麦を食べたいなっていう思い出の食文化に、今後もしていきたいと思っています。